「別にHappy or Notのような新しい機材やシステムを導入しなくても良いのでは?」
そのように考える人もいるかもしれません。
現代では企業に対して情報を伝える様々な手段が発達しているように思われるからです。企業などに意見を送信するメールアドレスやフォーム、SNSなどでのレビュー、そして口コミサイトなど。それらをチェックすることで、じゅうぶん人々の反応が分かるのではないか? という意見の人もいます。
1.レビューサイトの注意点
確かにレビューサイトや口コミサイト、企業HPのフォームに直接届く「お客様の声」は、そのような声が存在することを知ることができる、という意味では非常に有用です。しかし顧客による評価の「分布」を正確に反映しているとは言えないのです。それは、評価を届けるかどうかが、その顧客(あるいは、実際には顧客ではない人)の意志にゆだねられていて、書き込んでいない人の評価を知ることができないからです。往々にして、それを読んでいる人にとって、文章が上手な人の意見が、実際以上に正当で当然の意見のように見えてしまいがちなのです。
このバイアスは、レビューサイト自体のシステムによって強化されていることも少なくありません。たとえばレビューが新しいものから順に表示されるのではなく、他の読者がレビューそのものも評価するシステムになっており、評価の高いレビューが一番上になったり、目立つように表示されたりすることがあります。こうなると、実際の意見の数や正しさ以上に、その人が単にうまく書いているというだけで顧客の決定的な代表意見のような印象になってしまいます。
もっと困った事には、そのような「文章的には上手に書かれた意見」を読んだことで、その意見に感化された人が、本来は同じことを思っていなかったにもかかわらず、同じような意見を書いてしまうケースがあることです。
インターネットは、少数意見がほんのちょっとした表現の違いや拡散の工夫で、増殖してしまう世界です。
また、口コミサイトにせよレビューサイトにせよ、書きこむのはほんの一握りの人です。書き込まなかった人が同じような感想を抱いているのか、書き込まなかった人は書き込んだ人と逆のことを考えているのかはケースバイケースです。
むしろ、不満を持っていない顧客はそのことを他人にわざわざ言う事は少ないが、不満を持った顧客はその不満を広めやすいということが分かっています。
2.SNSの注意点
それでもレビューサイトであれば、そのサイトの中での意見のゆがみで話が済む場合が多いので、まだ被害が少ないと言えます。
ツイッターをはじめとするSNSサービス上でそれが起こると、いわゆる「炎上」が発生することがあります。
時には、人為的にその割合を歪ませようとする人々さえいます。いわゆる「抗議運動」のようなものです。彼らはしばしば「けしからん」と感じたものに対して、SNSやネットの掲示板に、企業が善意で顧客の意見を聴くためのフォームやメールアドレス、電話番号などを貼り付け、意図的に不満の声だけが大量に企業に届くように仕向けようとするのです。
好例として、2004年に制作された『コンクリート』という映画の興行があります。この映画は、とある有名な実在の殺人事件をモデルにしたもので、小さな映画館1つだけの公開を予定していた、いわゆる単館上映の映画でした。ところが映画の公開前に、インターネット上で「この映画は加害者を味方にしている」「被害者に非があったかのような描写をしている」「監督が被害者について暴言を吐いた」などのうわさがネット上で流れたのです。脅迫をふくむ大量の抗議が映画館に届き、映画館はその映画の公開を中止することになりました。しかし製作側はあきらめず、別の映画館で公開されることになりました。公開された映画の実際の内容は、うわさとは似ても似つかないものでした。監督が吐いた暴言というのも、ネット上で創作されたものでした。
十数年も前の話だし、ネット文化が成熟してなかった時期の話では?と思われるかもしれませんが、2018年にも似たような事件は起こっています。
それはNHKが製作した、ノーベル賞研究について解説するネット番組の事例です。その番組内で科学者と対談する役に、有名なバーチャルYouTuberを起用したのです。その内容が「女性差別的」であるというデマがSNSを発端として流れ、話題になりました。「差別的」とした理由は、女性の姿をしたそのバーチャルYoutuberが、男性の科学者にひたすら相槌だけをうち、とても頭の悪そうな演出になっているというものでした。それは公開されている番組を一見すれば分かるデマで、バーチャルYoutuberはごくごくまっとうに科学者と会話をしていました。
このデマは幸いにして、そのバーチャルYoutuberのファンなどが積極的な反論をしたことで沈静化しましたが、弁護士や大学教授などの実名アカウントまでもが何人も加担していたことが分かっています。
3.顧客でないクレーマーの存在
企業にとって「クレームは宝だ」と言われます。
それは企業自身が気付かなかった製品やサービスの欠点や不備に、気付かせてくれることがあるからです。そのため優良な企業ほどクレームに対して誠実に対応します。しかし、それをいいことに人を煽って、言い掛かりのようなクレームを大量に企業に届けさせ、要求や自己顕示欲を実現しようとするクレーマーも、残念ながら存在するのがネットの世界です。
そういう人達はしばしば「顧客の一人に過ぎない」どころか、「顧客でさえない」のですが、しかし顧客の振りをしてまことしやかな感想を述べることがあります。そうすることで「体験に基づくクレームだから」と説得力を高めたり、「上得意の信頼を失うのではないか」と企業側に不安を与えたりすることができるからです。
実際に、記憶に新しい「あいちトリエンナーレ2019」の一部展示に批判が集まった事例では、ネット上で「毎年行っている」「去年も行った」と、さも上得意であるかのように装ってクレームや批判を述べる例が続出しました。この場合は、トリエンナーレ自体がそもそも3年に1度しか開催されないイベントであるため、少なくともこのような発言を含むクレームは「嘘」だということが明らかになったのです。このような明らかなミスがあれば、顧客のふりを見抜くことも可能ですが、全ての「ニセ顧客クレーマー」について嘘を見抜けるポイントがあるわけではありません。
そうした声に惑わされず、正しく顧客の意見を捉えるためには「1人1票」のシステムが必要です。民主主義社会の基本は1人1票であり、しかもその全員が有権者でなくてはなりません。これを厳守するために法律は、選挙制度をさまざまに工夫しています。
Happy or Notは、顧客が退店する際などに基本的に全ての顧客に一回ずつ、匿名で評価をして頂くことが可能です。SNS上のように、顧客でない人物が勝手に作り話のクレームをすることもできません。また、ネット上で他人の文章を読んだうえで回答するのではなく、サービスを受けた直後に自分の実感を回答するため、他人の意見に流される危険性も少ない方法と言えるでしょう。